はじめに
「鼠径部ヘルニア(脱腸)」と診断された方の中には、「手術しかないの?」「手術は怖い」「日常生活にどんな影響があるの?」と不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、鼠径部ヘルニアの原因から症状、治療法、そして手術の実際まで、外科専門医の視点から詳しく解説します。手術の怖さや不安を解消し、あなたにとって最善の選択をしましょう!
鼠径部ヘルニア(脱腸)とは?
鼠径部ヘルニアとは、足の付け根(鼠径部)の筋肉が弱くなり、腸などの内臓やおなかの中の脂肪がその隙間から出てきてしまう病気です。一般的には「脱腸」とも呼ばれます。
鼠径部ヘルニアの種類と原因
鼠径部ヘルニアは発症した時期と穴のある位置によって分けられます。 発症した時期では先天性と後天性に、位置では鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアに分けられます。
先天性 | 新生児期から発症、鼠径部の穴が閉じないことが原因 |
後天性 | 加齢、重いものを持つ、慢性的な咳や便秘でおなかによく力を入れる |
- 外鼠径ヘルニア 外側にできるヘルニア。先天的に穴が開いていた場所にでき、最も多い
- 内鼠径ヘルニア 筋肉が弱くなること内側に発生するヘルニア
- 大腿ヘルニア より足側にできるヘルニア、女性に多い
鼠径部ヘルニアの症状
鼠径部ヘルニアの症状には主に次のようなものがあります。
- 立っているときや座っているときに鼠径部にコブのような膨らみができ、咳込むなどおなかに力を入れると大きくなる。横になると膨らみがよくなる。
- 当初は違和感程度であったものが痛みを発するようになる。
- 挟まった腸によっては便秘を発症する。
なぜ手術が必要なの?
鼠径部ヘルニアは、自然に治ることはありません。放置すると、以下のリスクがあります。
- 嵌頓(かんとん): 腸が挟まり、血流が悪くなり、腸が壊死する危険性があります。嵌頓が起きたに際にはすぐに病院へ行き、処置を受ける必要があります。
- 腸閉塞: 腸が穴に挟まることで腸が完全に閉塞し、嘔吐や腹痛などの症状が現れます。
手術は、これらのリスクを回避し、根本的に治すための最善の治療法です。
手術の種類と方法
鼠径部切開法
従来から行われている手術方法です。鼠径部に切開を入れ、飛び出した腸を元の位置に戻し、弱くなった部分を修復します。もともとは糸で縫っていただけですが、最近はメッシュ(繊維状の膜)を挿入して穴を塞ぐのが主流です。若年女性などでは妊娠の可能性を考え、糸で縫う方法を用いることもあります。
腹腔鏡手術(ロボット手術)
小さな穴を数カ所開け、腹腔鏡のカメラと鉗子という専用の器具を用いて行う手術です。傷が小さく、回復が早いというメリットがあります。 また最近はロボット手術も始まっていますが、現時点では保険収載されていないため一部の病院でしか行われていません。
手術後の生活
手術後、数日間で退院します。早い病院では翌日退院となるところもあります。退院後もしばらくは重い物を持ち上げたり、激しい運動をしたりすることは控える必要がありますが、日常生活程度の動き(歩いて買い物に行く、車を運転する)などは可能なことが多いです。退院後少なくとも1回以上外来診察を受けて通院は終了になります(私は少なくとも2回は受診してもらっています)。
手術以外の治療法はあるの?
鼠径部ヘルニアに手術以外の治療法はありません。 ただし、ヘルニアの症状は患者さん毎にさまざまであり、基本的には命に関わる病気でもないため手術を受けずに様子をみる方もいます。 一方で症状がひどくなってからだと手術の難易度が上がったり、様子をみている間に別の病気を発症して麻酔ができず、手術が受けられなくなるリスクもあるので、そのことを理解した上で選択をしましょう。
まとめ
鼠径部ヘルニアは、長年放置すると重篤な状態になる可能性があるため、手術による治療が推奨されます。鼠径部ヘルニアを疑った時には医師に相談し、あなたにとって最善の治療法を選びましょう。
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